若き総大将の出陣

若き総大将の出陣

コーディネーター山崎です。今回は、福島県の夏の風物詩であるあの行事について語ります。

【相馬野馬追とは】

 7月23 日・24日・25日にわたって開催された「相馬野馬追」。コロナの感染拡大により過去2回は縮小開催となり、今年は3年ぶりの通常開催となった。 相馬野馬追は5つの郷から出陣する。
北から宇多郷、北郷、中ノ郷、小高郷、標葉郷である。現在地で言えば、相馬、鹿島、原町、小高、浪江の各周辺地区となる。そのうち宇多郷は相馬中村神社、中ノ郷は相馬太田神社、小高郷は相馬小高神社から出陣する。

【今年は総大将に初出陣の中学2年生】

 今年の開催にあたり注目を集めたのは、総大将として「初陣」を飾った相馬言胤(そうま としたね)さんだ。相馬野馬追の総大将は、旧相馬中村藩主の子孫が務め、連綿と続いている。また初陣は、満14歳になった年に、数えで15歳になることから「元服式」を執り行い、初出陣するものだ。相馬言胤さんは、相馬家第33代当主 相馬和胤氏の孫であり、ゆくゆくは第35代当主となる方で、14歳の中学2年生だ。

写真提供:前総大将 相馬 行胤(みちたね) 氏

【代々引き継がれた名前の漢字】

相馬家は代々、この「胤」(たね)という字を名前に入れている。現在放映中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でも、岡本信人が演じている「千葉常胤」が登場している。つまり、平安時代末期から脈々と続く由緒ある文字(名前)である。旧相馬中村藩主の祖先は、鎌倉殿の13人のうちの1人「千葉常胤」の次男である「相馬師常」である。相馬師常の領地は、下総国相馬御厨(現在の松戸・取手から我孫子付近)・陸奥国行方郡(現在の南相馬市)・陸奥国宇多郡(現在の相馬市)を父親の千葉常胤から引き継いだ。つまり、相馬地方は岡本信人、いや千葉常胤の領地であったということだ。

【県内の他の武将たち】

 ちなみに、今年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」には、ほかにも福島県内に領地を有していた武将が出てきている。二本松の畠山氏、会津芦名家祖の三浦氏、須賀川の二階堂氏、白河(白川)の結城氏などが登場している。元々奥州藤原氏の領地であったが、福島石名坂の戦いや国見厚樫山の戦いで鎌倉軍が勝利し、論功行賞として分け与えられた領地である。
 相馬野馬追は、千葉常胤の祖先である平将門が軍事訓練として開催していたものが連綿と続いているとされている。相馬地方には「相馬流山」という唄があるが、平将門が軍事訓練を行っていた場所が現在の千葉県流山市あたりであるという言い伝えがあり、やはりそこが発祥なのだと思わせる。

【父親と息子の想い】

 このような長い歴史がある相馬野馬追の総大将を務めることになった中学2年生はどんな心持ちで臨んだのであろうか。普段は広島県内のクラブチームでラグビーに打ち込む普通の中学生が、歴代の総大将が身に着けた甲冑・鎧を身に着け、装飾のついた馬に乗り、出陣の法螺貝が鳴り響く中、相馬中村神社を出発し、郭内から中村城大手門を通って市街地に繰り出し、沿道からの熱い声援を受け、雲雀が原に向け威風堂々と進軍する。

以下、福島民友新聞の記事より:
言胤さんの父親である相馬行胤氏は、自分が初陣の際に感じたことをこう述べている。「何も知らない若造が馬に乗っているだけで応援された。『何だこれは』という不思議な経験だった」・・そのうえで、支えてくれる多くの人達を間近に感じ、胸の中に野馬追への思いが自然に生まれていった。
 言胤さんは、自分の初陣に向け、多くの人達が尽力していることを知り、「相馬の人たちは、地震があっても屈しないでいる。支えてくれる人たちに応えるため、堂々と進軍したい」と心に誓った。

【12年ぶりに復活した大熊町騎馬会】

 東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故で住民は避難を余儀なくされ、地元に入れない期間が続いた地区もあったが、伝統の相馬野馬追は続いてきた。今年、標葉郷騎馬会に所属する大熊町騎馬会は、町内での騎馬武者行列を12年ぶりに復活させた。雲雀ケ原で戦いを終えた騎馬武者7騎が、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故発生後、初めて地元に凱旋して「帰り馬行列」を繰り広げた。先人が築いてきた思いを受け継いでこれからも行列を続け、若い世代に野馬追の伝統を引き継いでいく。

【世代交代と事業の承継】

 今年総大将が初陣を飾ったように、各騎馬武者も世代交代が進んでいくであろう。自分の息子、またその息子が(今は女性の騎馬武者も増えてきている)立派な騎馬武者となって威風堂々行軍する姿を見るのは感激の極みであろう。そうやって世代交代は進んでいく。毎年毎年若武者が初陣を果たし、伝統が受け継がれていくことはすごいことだ。

 事業をやっていく中で、後継者がいないことを理由に廃業していくケースは増えてきている。これまで積み上げてきた技術やスキル、顧客や信用を後世につないでいくこと、現代社会において、これは大きな課題になってきている。事業を承継することが難しい時代にあって、相馬野馬追の伝統が連綿と受け継がれてきたことに感動を覚える。
 そういった状況にある事業者に寄り添い支援していくことが我々の使命であると、いままさに思いを新たにしているところである。
 1年後、灼熱の太陽のもと、また甲冑・鎧を身に着けた勇ましい騎馬武者たちが決戦の地「雲雀が原に向かって進軍する姿を、沿道で熱い声援を送る住民たちに見せることができる。・・また来年も楽しみにしている。


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